木曜荘

ものかきの日記

大血眼展

昨日は午前中に仕事を片づけて、すこし昼寝をしてから、日本橋ギャラリーカノンでのグループ展『大血眼展』へ。三十人近くの個性ゆたかな作家さんたちが参加していて、実に多種多様な作品がならんでおり、圧巻だった。とてもここで語り尽くせるようなものではない。二十五日までなので、行けるかたはぜひ足を運んでみてほしい。


なかでもやはり太田博健さんの作品に衝撃を受けた。はじめてお話したのは何年前だったか、ひどく寒い夕方、プチパリの裏の喫煙所で震えて煙草を吸いながら、ぼくの詩の話や、太田さんの絵の話をして、とてつもない共鳴を感じたことははっきりと覚えている。詞華集がうまくつくれたら、いつか参加していただきたいと思っている作家さんだ。どの作品もすばらしかった。

十八時半からのイベントではあまりに人が集まりすぎて、階段にすわって漏れ聞こえる音や声に耳をすますような状態になってしまった。「いきあたりばったりボーイズ」のライヴ前に一度休憩がはさまれたおかげで、そこで帰られるひとが多く、やっと奥へはいることができた。

ライヴは最高だった。中身すかすかのいまのJPOPとやらに、彼らの爪のかけらでも煎じて飲ませてやりたいほど、一曲一曲しっかりと中身が詰まっている。コミカルな曲もありそれらも楽しいけれど、哀愁や不安やかなしみをたっぷり含んだ曲がぼくはとくにすきで、なにより叫び声が強烈に胸に刺さる。とにかく表現力がすばらしい。

プチパリのみなさんも写真やペン画などで参加していてどれもよかった。ルネさんの朗読もいつもとすこし雰囲気がちがって、ダンスはとくにはじめてみる形でとてもおもしろかった。最後はプチパリのオーナーによる弾き語りもあり、太田さんの好きなバンドの曲を歌って贈っていた。AliceInChainsの『Rooster』という曲。初めて聞いたし英語歌詞だったから理解はできなかったけど、とてもよい曲だと感じた。いわゆる反戦歌ではないようだけれど、ベトナム戦争での(父親の)体験をもとにつくられた曲らしく、歌詞はどこか太田さんの生き方に似合っているようにも思われた。しかしオーナーは多才だな…。



絵画と音楽にみたされた、素敵な夜だった。
ぼくは絵が描けないのでかわりに文筆を手にしたわけだけれど、やはり絵画はいいな、と感じた。目をとおして脳に直接ぶちあたってくるし、角度や距離をかえるとまたちがう面を見つけることもできる。自分も描けたらといまだに思わないでもないけれど、ぼくはぼくのできる表現をつづけていこうとあらためて思った。
『楠』のなかのあるひとつの詩を朗読に使うという案も話されていたと聞いてうれしかった。今回の展示には合わないからとりやめになったそうだけど、褒めていただけて光栄に感じた。いつか自分の書いたものを朗読で聞くことが体験できたら、どんな気持ちになるだろうかと空想した。自分にはもういわゆる「詩」というものは書けない気がしているけれど、こうして読んでなにかを感じてくれた人もいるというのはやはりとても嬉しく、「書かない」ではなく、書けたらそのときは書いてみよう、と思った。

「普通」ではないことに安堵できる夜に感謝。今日はこれから普通の植木屋のおじさんになって普通に仕事をするわけだけれど、何度でもこの夜に戻ってこれるように、余韻を消してしまうことなく、ぼんやりと働こう。いや、まじめに働きますけどね…でも余韻は消す必要はないよね…。それくらい素敵な集いだった。最終日の土曜、時間がとれたらもう一度たずねてみようかとも思っている。