木曜荘

ものかきの日記

随筆

2023/01/05

別に花の見頃でなくたっていい。ただ樹木に囲まれたいときがある。そういうときにぼくが行くのは千葉の佐倉城址公園。電車で一本。読んでいた本から顔をあげると、ビルやマンションはいつのまにか消え去って、田圃と山が目に映る。その瞬間が好きなのだ。 品…

三十九歳というのはよい歳だ。自分の来し方に行く末に思いを馳せるのによい歳だ。 三十代と二十代後半、ぼくはさんざ生活と格闘をした。病と奮闘した。そうしてなにを得たかというと、なにもない、強いて言うなら、いまここにあるぼくだ。これを得た。そして…

告別

青空に心残りのしろい月 告別の朝も文字書くぼくは さんざんに泣かされた告別式だった。親より先に死ぬことの不孝を思った。生前の彼は本当におだやかで優しく、できた人間だった。父親の介護にも献身的だった。それでも、先に死んでしまっては、「親不孝者…

通夜

昨日一昨日は仕事がかなり捗ったので今日は安心して告別式に参列できる。 昨夜は素面でいたくなく、麦酒を何杯か飲んだけれど酔えないし、健康的につかれた体に酒精がまわって不快だしと、いいことはなかった。それでも飲まずにはいられないという気分だった…

報せ

今朝起きると、従兄急逝の訃報がまず目にとびこんできた。病気を患っていたわけでもなく、事故などでもない。死因はまだ不明とのことだけれど、あまりに唐突にやってきた死の報せに、ぼくはただ狼狽えることしかできなかった。 ぼくの一族は女系で、たくさん…

雨の日

濡れて重くだらしなくずりおちた地下足袋、くるぶしまで雨水に浸かって、一枚十貫ほどもある石板をはこぶ。雹かともおもわれるほどの大粒の雨が、土を殴る。泥が跳ねて、今朝たてたばかりの石材を汚している。坂のうえの区画で掘りあげられた泥が、大量の雨…