木曜荘

ものかきの日記

2022/04/28

二日間かかって芝を引っ剥がした。よわよわしい地上部からは想像できない根の強さに皆体力をそうとう奪われた。整地して、昨日は芝はり。はるのは慣れているもので行えばあっという間。二日でやっと剥がした分を一日でほとんどはり終えて、手伝い現場をすこし離れて、今日からは自分の仕事。

 

 

 

収拾のつかないこのウィルス騒ぎで、自分の仕事が極端に減ってしまったところに、本当に絶妙なタイミングで手伝いの声をかけてもらったことは以前にも書いたけど、毎日とにかく稼げることのありがたさを日々噛みしめている。仕事がある、やることがあるというのはさいわいだと感じる。

おまけに、ぼくは本来、好敵手がいると燃える質なので、多くの人と同じ現場にはいることが、とても刺激になっている。しかもぼくは造園のキャリアはまだ十年前後の青二才だけれど、たいていの現場では最年長になり、なぜかそこに勝手に責任感をおぼえるのだ。それもいい方向へ作用しているようにみえる。

声をかけあったり、作業が単純作業にはいったら手を動かしながら個人的なおしゃべりをしたり、そういったことも新鮮。この二,三年、ずっとひとりで庭で働いていたから、最初は上手にしゃべることもできなかったけれど、この頃はそういった使わなくなった能力も、すっかり復活してきたようにも思う。

もともとぼくはこうやって働いていたんだよなぁ、と感じることが多い。縁というのはほんとうにおもしろい。あのとき声をかけられなかったら、いまごろぼくはどうしていたのかな。店をたたんで、近くの造園会社に就職して、数年前とおなじ挫折をくりかえしていたかもしれないと思うと、心底から感謝の溢れてくる感じがある。

いまの距離感をたもっていけたらと思うけれど、「うちに入りませんか」という誘いに応えたい気持ちもすこしはある。そうするほうがいいと思うからではなく、ただ期待に応えたいという気持ちからなので、それはあまり良い結果を生まない気がしている。なんでも距離感は大切だなと感じる。

社長はぼくより六歳ほど若いけれど、造園のキャリアは二,三年先輩。修行時代の兄貴分だった。ぼくの闘病のもっともひどかったころをそばで見ていて、そこにかなりの理解を示してくれているので、じっさい会社に入ったとしても、かわらず接してくれるような気もするけれど、前に一度そういう失敗をして、もういやになって独立したという経緯があるので、やはりためらわれる。これはゆっくり時間をかけて考えていこうと思う。店をたためば、いろいろな出費は減るし、収入も金額は減るだろうけれど「安定」はする。どう働くかはどう生きるかの選択だなとつくづくそう思う。

後悔のまったくない選択などほとんどないだろうけれど、それでもできるだけ生きやすい選択をして、仕事と文筆の両立をめざしつづけていたい。

 

 

労働と創作

 

いまの手伝い現場のなにがたのしいって、毎日稼げることもとうぜんあるけれど、なにより「全力を出せる」ことが大きい。ぼくの庭仕事では、多くの現場が「全力を出し切るまえに」終わってしまう。文字通り「朝飯前」に終わることさえある。高木剪定一本だけ、とかざらにあるので、それも仕方のないことなのだけれど。

頭をずっと回転させて段取りをはかり、仲間の動きをみながら流れを読み、提案し、指示され、それをかたちにしていくこと。体をずっと動かし続け、すこしでも「呼んでよかった」と思ってもらえるように働くこと。そうやって集中して一日を過ごすことが実にここちいい。

そしてそうした一日を過ごすほうが、かえって限られた時間での創作の集中力が増すような気もしている。多くの人に良いと言ってもらえた「本と少女」は、たしか真夏の、連日つづく芝刈り草刈りの現場で、休憩時間をすべてつかって推敲したのだった。あのときの集中力はいまおもいだしてみてもやはりすごかった。(先生の本にのせてもらうのだという緊張感がもっとも激しく作用していたのだけれど、それにしてもよい集中力を発揮していた。)

ぼくは創作と生活は二人三脚だと思っている。だからときに足をひっぱりあうのだと以前は思っていた。創作のじゃまになるものを排除すれば、成果はもっとあがるのではないかと考えたのだった。けれどそれはぼくにとってはあまりおもしろい効果はうまなかった。仕事がはやく終わって、白紙を前にする、時間だけはたっぷりある。たっぷりあるので、いま書かなくてもいい。書けないと思う。じゃあ今じゃなくていいや、となる。気がつくと「暇つぶし」ばかりしてしまう。どうやらぼくは追い込まれたほうがいいらしい。しっかり働いた一日の、残された時間で創作と向きあう。それがぼくにあった二人三脚のかたちなのだと今は思っている。

労働はぼくにとって、詩情の母胎のひとつなのだと、あらためてそう感じた。

 

そろそろ仕事の準備。今日は虫たちと戦う。殺虫は好きではないけど、仕方ない。それがぼくの糧にかわるのだから。仕方ない。