木曜荘

ものかきの日記

2022/05/06

 

蝶をモチイフになにか書きたいと思って、図鑑を借りてきて読むなどしている。

知れば知るほど、虫の世界はおもしろい、神秘に満ち溢れている。まったく無駄のない機能の美しさ、合理的な形態、変態、次の命までへの細心の注意、どれをとってもおもしろい。そこまで深く知っているわけでもないけれど、人間に欠けているものを思い知らされるには充分。

たとえば、ぼくはうつ状態のひどいとき、布団から出るのは食事のときだけで、それも一日になんどもなんども食事を摂る、というときがあり、そのころ自分を芋虫とかさねることが多かったけれど、彼らは二週間ほどで体重を1000倍ほど増やさなければいけないという重すぎる使命を背負って喰っているらしいので、似ているだなんておこがましいことだったと気づいた。

食べるための形態である芋虫、繁殖するための形態である蝶、そしてそのあいだの蛹、本当におもしろい。予定のない日曜が今月あと一日だけあったので、近くの生物園まで蝶を見に行こうと思っている。楽しみ。

 

ぼくらは、芋虫のように身にあった様々な本を読み、色々な体験をたくわえてきた。それぞれの道があったはずだ。そして蛹を経て、いま蝶のようにものを書いているのだと思う。その蝶をひとところに集めて、ひとつの花に集めて、一冊の本に綴じられたら、と願う。そういうおもいから、詞華集の題は「蝶」と決まっている。蝶をモチイフに使っても使わなくてもいいけれど、そういうきもちで名付けたのだという話。読んでみたいなぁ、きっとおもしろいものになる。

科によってまったく異なる翅の模様が展開されるように、ぼくらの書くものも、色とりどりに輝くだろう。うまくやれるかな、資金は貯められるかな、わからないことばかりだけど、一生に一度でもいいから、そういう本をつくってみたい。

そのためにも今日も汗をかいて働いてくる。そのためと考えれば、仕事のなんとありがたいこと、そしてたのしいこと。すこしずつ貯めて、夢の一冊に近づいていきたい。

 

あ、「欅」を忘れているわけではない。いや、いまは冷却のために忘れているけど、ほんとに忘れてはいない。いや、忘れそうなくらい「蝶」に夢中にはなってはいるけど…。いや、じっさいちょっと忘れかけてたけど…。いまはそのくらいがちょうどいいかも。もうすこし距離をあけて読めるようになって、そこからだから。それまではこうして「蝶」の夢を描こう。

ぼくは言葉と、そして本のために生まれてきたんだと、このごろそう思うことが多い。読むのと、つくるのと。本に関わっているときに感じるさいわいは、他のなにものでも代わりにはならない。すこし大げさかもしれないけれど、ほんとにしみじみそう思うのだ。ぼくにこの道があってよかった、そしてその道で皆さんと出会えてよかった、そう思うのだ。