木曜荘

ものかきの日記

2021/11/11

朝起きて、どうしても外出する気分になれなかった

台所の換気扇のしたで頭をかかえて煙草を吸っていた

妻が起きてきた

起きてそうそう申しわけないのだけど、通院に付き添ってくれないか

どうしてもひとりで行ける気がしないんだ

弱音を吐いたのは久しぶりだった

本当はずっと吐きたかったし、誰かに、なにかに、頼りたかったのだときづいた

 

妻は快諾し、急いで準備をしてくれた

車の運転をする気になれなかったので、電車で行くことにした

片道1時間、多くの他人を見るのも、電車に揺られるのも久しぶりだった

自分の世界に自分しかいない状態だったことに気づいた

友人が多ければいいとは思わないし、孤独は大事だけれど

たまにこうして他人を見て、聞いて、あるいは触れて

そうすることで見つかる自分のあることを思い出した

 

診察室、うまく話せる自信もなかったので、待合室で携帯に書いた文章を見せた

十年ほどのつきあいになる主治医はそれをじっくり読みながらタイピングしている

ぼくはふわふわと思いを語り始める、すぐにとぎれる、でもまた話す

溺れるものが藁をつかむ感覚がわかった、とぎれ、また話した

いろいろな話のあと、「きっと立ち直れる」と医師は言った

あるときは無責任なことをいうなと怒った

あるときは誰も俺のことを理解などできないと嗤った

でもその日のぼくは泣いた

涙がでた

誰かにそう言ってほしかった

きっとよくなる

きっとでいいから、そう言ってほしかったのだ

 

通院から数日、日に日に生き返っていくのがわかる

ロシア武術の呼吸法をとりいれて、パニックから逃れられるようになった

本もずっと読めなかったが、自分の作品を読み返せた

仕事に前向きに向き合えるようになった

煙草もやめた

人生が自分の手元に帰ってきたように感じる

二年ちかくぼくを苦しめたものたちが、日に日に溶解していくように思われる

不安、焦燥、自棄、劣等感

そろそろと、生を再開させたいと思う